『気になった』
とても曖昧な表現だ。何処がどう気になったのだろう。
こういう時、私はとても悲観的に考えてしまう癖がある。だから、『気になった』なんて言われたら、それは、私があまりにも他の人と違っておかしい人間だと思われたのではないかと感じてしまう。

「僕は湖川さんに憧れているのかもしれない。」

更に訳が分からない。私の何処に憧れるというのだ。

「私に憧れられる所なんてありません。」
「そんなことないよ。」
「では、何処に憧れると言うのですか?」
「それは、えっと、自分の意思を強く持っていて、それを貫き通すところ…?」
「つまり、頑固ということですね。」
「そうは言ってないって!」

いや、そう言っている。でも確かに、私は昔から頑固な性格だった。自分で決めたことは絶対に最後まで守り通す。
でも、そんな頑固さは、他人から受け入れられづらかった。
『アイツ、真面目過ぎるんだよ。』
『優等生ぶっちゃって。』
色々なことを言われた。だから、頑固なことはいけないことだと思っていた。それなのに…。そこに憧れると言ってくれる人もいるんだ。
素直に嬉しいと感じる。

「あと、もう1つ、湖川さんが気になった理由があるんだけど。」
「なんですか?」
「入学して、間もない頃──」
「藍〜〜〜〜〜!!!!!」

佐倉くんが話しかけたその時に、前方から私の名前を大声で呼ぶ声が聞こえてきた。

「お兄ちゃん…!」

佐倉くんとの話に夢中になっていて気づかなかったが、数メートル先に、待ち合わせ場所の時計台があった。