結局、手を握ることができなかった…。
皆と別れた後の帰り道、一人で今日の出来事をぼんやりと振り返る。
強くなりたくて、何でも器用に熟(こな)したくて、いつも強がっているけれど、結局俺は何も変わっていない。
あの時と同じように、どうしようもなく臆病で、ヘタレで、何の力も持っていない。
『彼女の気持ちを考えたら、手を握ることができなかった。』
だなんて、自分を正当化する為の言い訳まで考えてしまっている…。
だから俺は、いつまでも変われないんだ。頭では分かっているはずなのに──

「すみません!」

自宅付近まで来た時、突然知らない女の人に声をかけられた。
髪の毛はきちんと後ろで強く結ばれており、ナチュラルメイクに灰色のスーツ姿だ。
手にはマイクを持っている。
俺は反射的に身構えた。

「真島広大さんですよね?」
「違います。」

足を早めて、その場を去ろうとする。しかし、その女の人は、それくらいでひるまずに、後をついてきた。

「嘘ですよね?真島広大さんですよね?少しお話を聞かせてください!」
「人違いです。」
「でも、この辺りに住んでいるという情報を掴んでいます!ご本人様ですよね?」
「違います!」
「では、真島広大さんが何処にお住みか知っていませんか?」
「知りません!しつこいです!ついてこないでください!」

俺はそう叫ぶと、全力で走り出した。

「ちょっと待ってください!何で逃げるんですか!?」

もう、質問には答えない。
夢中で走り続けて、なんとかその女性を巻いた。