「あのさ。」

俺は口を開く。

「文化祭の日…。」
「えっ?」
「その…、文化祭の日…。文化祭の日の…水原、凄かったよな。」

違う。こんなことが言いたいわけではない。
どうして聞けないんだ。
文化祭の日に行われた舞台の直前、彼女と佐倉の間に何があったのか。彼女は佐倉に好意を寄せているのか。それとも、もう…そういう関係なのか…。そして、どちらからキスをしたのか…。
どうして…、どうして聞けないのだろう。

「何何?俺の話してた!?」

少し前を歩いていた水原が、自分の名前が話題に上がっていることに気がついたのか、後ろを振り返って、話に割り込んだ。

「いや、別に…。あ、そうだ。今日のデートは、水原が初めに提案してくれたんだ。だから、誘ってくれたお礼を言うなら、俺じゃなくて水原に言え。」
「え、奏汰くんにお礼を…ですか?」
「そうだ。」

そう言った時、水原が俺の手を引いて、さり気なく耳打ちをした。

「真島くん!それは言わない約束。デートは2人で決めたっていう設定だから。」

そんな設定、初めて聞いた。そうなら先に言っておいて欲しい。

「藍さん?今のは冗談だからね〜!デートは2人で相談して決めたことだから!」

苦し紛れに言い訳をしているが、言葉が完全に棒読みになっている。
以前、見せてくれたデートの誘い方の演技は完璧であったのに。アドリブは苦手なのだろうか。

「あー、そんなことより、気づいたら、もう映画館に着いちゃったね!席はこっちだよー。」

あからさまに慌てた様子を見せながら、水原は俺たちを予約した席へと案内した。