「結構前の話だが、俺がクラスで孤立した時、君だけは味方になってくれただろ?」
「ああ、あれはもういいんですよ。私が勝手に信じただけなので。」
「いや、何と言うか、お礼をすべきだと思って。」

水原からこのやり方を提案されたから、俺はあの時のお礼としてデートをするわけだが、この機会が無かったら、お礼をしようだなんていうことは、考えもしなかった。
最低だな。助けてもらっておいて。デートが終わったら、改めて何か贈り物でもしようか…?
…いや、そういうキャラではないし、それは“重い”かもしれない…。

「お礼…?」

何はともあれ、ここまでは順調だ。
何だ、人を誘うのは、案外簡単なものなんだな。

「お礼になるかは分からないが…、」

俺は、予め水原からもらっておいた、映画のパンフレットを、スクールバッグから取り出そうとした。
しかし、その瞬間、自分でもよく分からないが、突然我に返り、手が止まった。。
分からないけれど、突然不安になった。
俺は、一体何をしているのだろう…。
こんな、演技までしなければ、彼女をデートに誘うことすらできない。パートナーなのに…。
今更だけれど、そんな俺達の関係は、おそらく普通ではなくて、普通ではないようにした自分自身が、とてつもなく惨(みじ)めに感じる。

「…真島くん?」

彼女に名前を呼ばれて、視線が合う。
そもそも俺と映画に行くことを、彼女は喜ぶのか…?彼女は、嫌だと思わないのか…?
分からない。俺はやはり彼女のことを、何一つ分かっていない。
逃げ出してしまいたい。しかし、呼び出しておいていて逃げるというような最低なことは絶対にできない。