「はい!こんな感じ!」

完璧な演技だった。水原は前のパートナーとの相性が3位だと言っていたが、もし1位で、パートナーとも上手くいっていたら、文化祭の『白雪姫』は物凄く盛り上がっただろう。

「どうだった?」
「完璧だった。」
「ドキドキした?」
「いや。『広大ちゃん』というフレーズで全てが台無しだ。」
「えー。」

水原はつまらなそうな顔をしているが、ドキドキしなかったものはしなかったのだから仕方ない。

「じゃあ、これならドキドキする?」

その瞬間、水原は俺の腕を強く引き、近くの壁に押し付けた。
これは…、

「壁ドン。大抵の女の子は、イケメンに壁ドンされるとドキドキするらしいよ。」
「俺は女子じゃない。」

それに、今の言い方だと、完全に自分のことを『イケメン』だと言っていることになってしまうのでは…。
全く。水原は本当に、どこまでが天然で、何処からが計算なのか分からない。
こんなに分かり易そうなのに、意外とミステリアスな雰囲気をたまに出すギャップが、女子ウケするのかもしれない。

「確かに。」

顔が近すぎる。人の目を注視するのは得意ではない。水原は俺の目を見つめているけれど、俺は何処を見て良いのか分からない。

「水原、1つ質問があるんだけど。」

そう言った時、自習室の扉を開ける音がした。