どうして“あいつ”が、この学校に転校して来るんだよ…。
1か月前の始業式の日、あいつは突然俺達の教室へと入ってきた。
『影石愛です。宜しくお願い致します。』
整然とそのようなことを言うあいつを、俺は受け入れることができなかった。

「くそっ…。」

放課後。今日は全ての部活が活動をしていない日で、グラウンドには野球部も陸上部もいない。校舎からは楽器の音も聞こえない。週に一度の、静かな放課後だ。
中庭にある砂利道を歩きながら、の小さい石を軽く蹴飛ばす。
石は数メートルだけころころと転がり、直ぐに止まる。
こんな風に、この世の全ての物事が単純だったらもっと楽に生きられるのに。
影石愛。
俺とあいつは、ただのクラスメイト達と比べたら、少し特別な意味を持つ存在だった。しかし、今ではあいつが大嫌いだ。
あいつのせいで俺は、あんな目に…。
この学校に来たのだって、あいつを含めた“あの町の連中”から完全に離れる為にだったのに。
それなのに、この学校で再会してしまうなんて…。
砂利道の曲がり角で何気なく地面を見つめる。
先程蹴った石は、どれであっただろう。
そんなもの、本当はどれだっていいのだ。でも俺は、それを探す。
違う。探しているのではなく、立ち止まって俯(うつむ)く時間が欲しいだけなのだと思う。でも、それを認めたくない。俺はいつでも強くいたい。自分自身を、これ以上壊さない為に──

「うわあ!」

曲がり角付近で止まっていると、丁度死角になっていた道から走ってきた人が、俺に体当たりして、後ろに尻もちをついた。