「愛。」
「さっきは取り乱してごめんね。」
「ううん。大丈夫。」
「ありがとう。私、藍ちゃんから、蛍貴に近づかないでって言われて、動揺しちゃったの。」

もし、彼女の言っていることが本当なのだとしたら、湖川さんはどうしてそんなことを言ったのだろう。
影石さんは、僕を取られたくないからだと言っていたが、湖川さんは僕とただのクラスメイトだと言っていたから、それは考えにくい。

「蛍貴も遊びだって言われて、私、頭に来ちゃって…。蛍貴のことを大切にできない人を私は許せないよ。」

影石さんの目には、まだ涙が溜まっている。

「大丈夫だよ。きっと遊びじゃないから。」
「えっ?」
「本当に湖川さんが『遊び』だと言ったの?聞き間違いとかじゃなくて。」
「聞き間違いって…。蛍貴、もしかして私のこと、疑ってるの?」
「別に、そういうことじゃないんだ。」

そうじゃないけれど、そう聞こえてしまってもおかしくは無い。僕は少しだけ、彼女を疑っている。

「じゃあ──」
「僕は湖川さんを信じたいんだよ。」

今まで湖川さんとは沢山話をしてきたけれど、あれが全て遊びだったとは、どうしても考えられない。
それに、彼女は文化祭で僕がキスしたことを、ずっと言えずにいたようだ。もし遊びだったら、直ぐに言ってしまうように思える。