「そうだ。湖川の言う通りだ。失った時間は、戻ってこないんだ。だからこそ、未来を見なければいけない。過去の過ちを償う為に。」
「過去に囚われていてはいけないと言うことですか…?」
「そうだ。」
「つまり、私に過去の出来事は忘れろと言いたいのですか…。随分と自己中心的ですね。」
「違う。そうじゃないんだ。」

先生が1歩ずつ、確実に私と距離を縮める。
怖い。
いつもなら、反射的に身体が動くのに。
3年前からそうだった。いつだって、先生の前では、足が動かなくなる。

「あの時、僕は本気で君を──」
「私は先生のことが大嫌いです。今も昔も。顔も見たくないですし、声も聞きたくないです。私の前から消えて欲しいと思っています。」

自分でもわけが分からないまま、早口で言った。
とても酷いことを言ってしまった。でも、それ以外にどうして良いのか分からなかった。

「湖川…。」

その瞬間、近くの廊下で何かが床にぶつかる音がした。

「…湖川さん…?」

急いで教室の外を見ると、そこには佐倉くんが立っていた。すぐ近くの床には、スクールバッグが落ちている。

「さ、佐倉くん…。」
「今のって…。」

私はそのまま教室を飛び出した。

「ちょっと、湖川さん…!?」

最悪だ。よりによっても、彼に暴言を吐いているところを見られてしまうなんて。
醜くて意地の悪い人だと思われてしまったかもしれない。
でもそれは、あながち間違いではない。
私は醜くて、先生や影石愛を許せなくて、佐倉くんの幸せを応援できないような、意地の悪い人間なのだから。
こんなはずじゃなかった。高校生になったら、また昔みたいな明るい自分に戻る事ことができると、そう思っていたのに…。