「そんなわけないじゃん!」

あまりにも意外な反応に驚いた。

「だって、藍の洋服だよ!?『あれ着たら可愛いかな?』とか、『これ着たらもっと可愛いかな?』とか、考えるだけでワクワクするし、楽しいに決まってるじゃん!」

お兄ちゃんがあまりにも熱くそう言った為、私は何も言えなくなってしまった。

「…あ!ごめん!あ、えっと、僕、何でこんなに恥ずかしいこと言ってるんだろう!?あれ?こんなこと言うはずじゃなかったのに。と、とにかく、試着しよう!?試着!店員さーん!」

慌てて店員さんを呼ぶ姿は、どこか可愛くて、私は気づかれないように、笑った。
そして、少し待っていると、店員さんがやって来た。

「どうされましたか?」
「えっと、試着をしたいのですが…。」
「こちらの商品ですね。では、そちらの試着室の方でどうぞ〜。」

店員さんの指示にしたがって、私は試着室へと入った。
お兄ちゃんは、服選びが楽しいと言ってくれたが、できるだけ待たせることのないように、早く着替えをしなくては。
そう思っていると、試着室の外から、お兄ちゃんと店員さんの話し声が聞こえてきた。

「可愛い彼女さんですね。」

へっ…か、彼女さんって…!?

「やっぱり可愛いですよね!そうなんです。彼女は昔から目に入れても痛くないくらい可愛いんですよ。」

何故、従妹だと否定しないのだろう。私なんかと恋人だと思われたら、たまったものではないはずなのに。
それに…、『目に入れても痛くない』というのは、恋人というより、完全に親目線だ。

「昔からのお付き合いなんですか?」
「はい。生まれた頃から。」
「へぇ〜!そうなんですか〜!それじゃあ、あれですね。運命感じちゃいますよね。うふふ。」

う、運命…。聞いているこちらが恥ずかしくなってくる。

「運命というか宿命というか、僕達は出会うべくして出会──」
「お、お待たせ致しました。」

これ以上お兄ちゃんが恥ずかしいことを言ってしまわないように、私は大急ぎで着替え、試着室を出た。
店員さんとお兄ちゃんの視線が一気に私にばかり集まる。

「わ〜!可愛い〜!とっても似合っておりますよ〜!彼氏さんもそう思いますよね?」

店員さんがお兄ちゃんに尋ねる。しかし、お兄ちゃんは黙っていた。

「彼氏さん…?」
「藍、何それ…。」