あの後、お兄ちゃんは私を海に連れて行ってくれた。悲しい思い出を、楽しい思い出に塗り替えるのかのように。
お兄ちゃんには本当に感謝している。だから、お兄ちゃんを“怖い”と思うはずがない。
それなのに──

「藍、どうしたの?」
「へ?」
「ぼーっとしてるみたいだけど?」
「な、何でもない。少し考え事をしていただけ。」
「そっか。…あ!それより、この服どう?藍に似合うと思う!」

お兄ちゃんは私に、一着の服を差し出した。
淡い水色のチェック柄のブラウスに、白いフレアスカート。清楚なその見た目は、とても涼しげで春を感じる。

「可愛い…。」
「でしょでしょ!試着してみる?」
「え、でも…。」

男の人は女の人の服選びに付き合うのが苦手である人が多いと、どこかで聞いたことがある。お兄ちゃんは、私の為に我慢しているのではないだろうか。
服の試着はしてみたい。でも、そうしたら、お兄ちゃんの待ち時間が長くなってしまう。

「やっぱり、違うのがいい?ごめんね、僕、ふくのセンスとかよく分かんなくて──」
「違うの。」
「え?」
「お兄ちゃん、面倒じゃないの?私の服を選ぶの、つまらなくない…?」

正直にそう尋ねてみた。
お兄ちゃんは、大きく目を見開いた。