「影石さん、よろしく。」

無言が気まづくて、僕はそう言った。

「やだなぁ。『影石さん』だなんて、堅苦しいよ。『愛』って呼んで?」
「えっと、じゃあ、愛さん。」
「『さん』は要らないよ。『愛』。そう呼んでみて?」
「愛…。」

何だか変な気分だ。僕は今までの人生で、誰かを呼び捨てしたことが無い。ずっと親しくしていた本田くんでさえ、1度も『懸』と呼んだことがないのだ。

「とっても嬉しい。じゃあ、私も佐倉くんのこと、『蛍貴』って呼んでいい?」
「えっ…?」
「あ…、ごめんなさい。駄目…だったかな…?」

彼女が上目遣いで僕を見つめた。

「いや、蛍貴でいいよ。」
「本当?ありがとう!」

彼女が笑う。
ボブの短い髪に、とても大きな目。つぶらな瞳。そんな彼女が笑った姿には、とんでもない魅力が潜んでいるような気がする。

「それにしても、私達、校内で1番相性が良いんだね。」
「そうみたいだね。」

校内で1番。これ以上無いほど、最強の相性であるということだ。
湖川 さんと真島くんは、学年1位であったけれど、それをも上回る、校内1位。僕達の存在は、AIの研究に、どれほど強い影響を与えるのだろう。

「パートナーが蛍貴で良かった。改めて、よろしくね!」

彼女が僕の目の前に手を差し出した。
僕はそれを握り返す。

「よろしく。」

そう言った僕は、上手く笑えているだろうか。