「いいえ、湖川さんが連れてきてくれたのよ。」
「湖川さんが…?」

ということは、僕が泥酔している姿を、湖川さんはバッチリ見てしまったということだ。
それにしても、湖川さんは舞台があったはずなのに。どうして僕のところへ来たのだろう。
そして、何も覚えていないけれど、僕は酔った勢いで、湖川さんに変なことをしていないだろうか。

「ええ。湖川さんったら、『白雪姫』の衣装とメイクをしたまま来るんだから、とても驚いたわ。」

つまりは、本番直前だったというわけだ。

「そういえば、この前は逆だったわよね。」
「逆…?」
「そう。佐倉くんが、湖川さんを連れてきていた。」

そうだ。そんなこともあった。

「貴方達、本当にパートナーじゃないの?」
「はい。」
「不思議だわ。とても相性が良さそうなのに。」
「だとしても、僕より彼女と相性の良い人物がいるんですよ。」
「真島くんね。」

やはり、相性が1位なだけある。保健室の先生にまで認知されているなんて。

「佐倉くんは、湖川さんのことが──」
「違います。」
「あら、私はまだ何も言ってないわよ。」

しまった。湖川さんに気があることを知られたくなく、思わず否定してしまった。

「ふふふ。まあ、それくらい受け答えができれば、もう体調の方は大丈夫ね。」
「はい…。」
「じゃあ、残りの文化祭を楽しんできて。」
「分かりました。」

僕は起き上がり、ベッドから降りた。
先生は、壁に取り付けられている、大きな時計を見ている。

「3時だから、丁度ミスコンの優勝者が発表された頃かしら。」
「ありがとうございます。ご迷惑をおかけしてすみませんでした。失礼します。」

そう言うと僕は、保健室を出た。
そのまま体育館へと向かう。ミスコンの結果も気になっていたが、記憶の欠けている部分の出来事を、湖川さんに聞こうと思う。
陽芽さんがミスコンに出場しているから、きっと彼女も体育館にいるはずだ。