「それは、違います。」
「えっ…?」

再び彼が私の方を振り返り、視線が合う。

「両方選んだのです。」
「両方…?」
「はい。もしあの時、体育館を離れていなかったら、佐倉くんの所へも行けず、舞台にも集中できないと思ったのです。だから私は体育館を抜け出すことで、両方選ぶことにしたのです。」

やはり、両方というのは、強欲だっただろうか。

「なんだ。てっきり君は佐倉のことが好きだから、俺じゃなくて佐倉を選んだのかと思っていたが。」
「ち、違いますよ!もし、私が佐倉くんのことが好きで、佐倉くんだけを選んでいたのだとしたら、舞台には出てないですよ。」
「そうか。じゃあ、俺にも…。」

真島くんが、もう一度私にを背向けた。そして、

「俺にも、まだチャンスあるよな。」

とても小さな声で、何かを呟くと、楽屋へと戻っていった。