「っ……!?」

何かの間違いだ。そう思ったけれど、違った。私の唇には、しっかりとした感触があった。
私は驚いて目を開く。すぐ目の前に佐倉くんの顔があり、本当に彼とキスしてしまったことを、理解した。
そして、ゆっくりと彼の唇が私の唇から離れた。
たった数秒間くらいであったと思うが、私には、とてつもなく長い時間に感じられた。

「ははっ。湖川さん良い匂いする〜。」

ど、どどどどど、どうしよう…!わ、私、佐倉くんと…キ…!

「キス、しちゃったね。」

佐倉くんは、こんなことをして、平気なのだろうか。

「さ、佐倉くん!」
「ん〜?」
「保健室へ行きましょう。」

おれはおかしい。明らかにおかしい。
だって、こんなことをして、平気なわけがない。佐倉くんは、かなり泥酔(でいすい)している。もしかしたら、危険な状態なのかもしれない。
何せ、吸い込んだのは、よりによっても、ウォッカだ。
きっと、酔った勢いで、好きでもない相手とキスを…。

「え?保健室??大丈夫だよ。怪我してないから。」
「駄目ですよ。佐倉くんは今、お酒に酔っているのだと思います。」
「え?」
「顔が赤いですから。」
「それは、湖川さんのことが好きだからだよ。」

とろんとした瞳で私を見つめながら、彼が言った。
もう。簡単にそんなことを…。こちらは、先程から心臓が壊れそうなくらい、鼓動が高鳴っているというのに。

「佐倉くん、立てますか?」
「立てると思うけど。手、貸して?」

もう、キスまでしてしまったのなら、今更これ以上躊躇(ためら)うことは何もない。
そう思い、私は佐倉くんに手を差し出した。
佐倉くんがそれを握る。

「っ…!!」
「へへっ。恋人繋ぎ。」
「ふ、ふざけないでください…!」

私は急いで繋ぎ方を変える。そして、大慌てで保健室へと向かった。