私は走り続けた。
きっと今は、前だけしか見えていない。でも、それでいいんだ。後ろを振り返ったら、また迷いが生まれてしまいそうだから。
もう、彼は私の中で、ただのクラスメイトではない。とっくにそれ以上の意味を持っていた。
クラスメイトではないなら、一体何なのか。その答えは分からない。それに、彼が私のことをどう思っているのかも分からない。
でも…。
私の中で、彼は特別だ。無色透明の美しいそのオーラと、彼の優しさを、私は失いたくない。近くじゃなくていい。遠くで眺めているだけでも…。いや、眺めることさえできなかったとしても…、それでも私は彼を失いたくない。彼のような私の理想的な人物がこの世に存在しているのだと、その事実を感じることができるだけで、私は勇気をもらえるのだから。

「佐倉くん…!」

校舎裏に到着すると、直ぐに彼を見つけた。彼は、近くの壁にもたれ掛かるようにして座っていた。

「佐倉くん、大丈夫ですか!?」
「あれ…、湖、川…さん?」
「はい。湖川藍です。佐倉くん、怪我はありませんか?」

ぱっと見た感じ、火傷や傷は全く無さそうだ。
しかし、ももちゃんの言っていた通り、様子がおかしい。ぐったりとしている。

「怪我は…、無いと思うけど…。」
「けど?」
「家事の原因は、この学校の生徒が、ふざけてお酒を燃やしたからだ。」
「お酒…?」

一体、どんなふざけ方をしたら、お酒を燃やすなどという発想に至るか不思議だ。それに、まだ未成年なのに…。きっとお酒を買うのに、年齢を偽ったのだろう。

「うん。幸い、大火事にはならなかったけど。でも…。」
「でも…?」
「お酒を燃やした時の煙を吸ってしまったからね。何だか頭がぼーっとする。」

お酒を燃やした時の煙…。確か、それを吸うと、実際にお酒を飲んだ時より、アルコールが早く回ると聞いたことがある。