「もう本番まで1時間を切っている。今は舞台に集中しろ。」
「でも…!」
「今まで努力してきたんだ!この頑張りは俺達だけじゃない。先輩方も俺達のサポートに全力をかけていてくださった。その想いを無駄にはできないだろ!」

あまりにも熱心な態度でそう言われ、私は萎縮(いしゅく)してしまう。

「それに、今君が佐倉の元へ行ったところで、佐倉が良くなるわけでも、なんでも無いだろ。」

あまりにも正論過ぎるその言葉に、私は少しも反論することができなかった。
私が黙っている隙に、真島くんは次の言葉を続ける。

「桃野。悪い。今、彼女を佐倉の元へ向かわせることはできない。」
「でも…。」
「分かってくれ。この舞台は、相性1位のペアが、学年を代表して行う、大きなミッションなんだ。どうしても彼女は演じきらなくてはならない。」
「そっか…。」

ももちゃんは悲しそうな目をしながら、とぼとぼと舞台袖を出ていった。
そして私と真島くんは、近くにある椅子に座った。

「佐倉くん…。」
「心配だな。でも今は、無事を祈るしかない。」

その通りだ。今は祈ることしかできない。ももちゃんが、命に別状は無いと言っていたから、きっと大丈夫なはずだ。でも…。
私は、今まで佐倉くんと関わってきた日々を思い出す。