「じゃあ、帰るか。」
「はい。」

そう言って、私達は、体育館を出た。外はもうすっかり暗くなってしまっている。時計を見ると、7時50分を指していた。

「明日、頑張ろうな。」
「はい、頑張りましょう。」

「何か不安があるのか?」

真島くんが私に聞いた。

「あります。」
「でも、もう台詞も動きも完璧に覚えただろう?」
「そうですけど…。観客がいるところで、上手く演じられるか分かりません。」

本番は周りに沢山の人がいるのだから…。台詞が飛んでしまったらどうしよう…。

「その心配はない。」
「どうしてですか?」
「数週間前に俺の良からぬ噂が広まっただろ。それで皆、きっと俺に近づかないようにするはずだから。」

私は何と答えたら良いか分からず、作り笑いを浮かべた。

「君ならきっと大丈夫だ。今まで1日もサボらず、努力してきたんだ。きっと上手くいく。」
「でも──」
「『でも』じゃない。きっと上手くいく。声に出して言ってみろ。」

真島くんに言われ、私は大きく息を吸った。

「きっと、上手くいく。」

不思議だ。口にしてみたら、本当にそれが事実であるかのような気がしてきた。

「凄い…。本当に上手くいきそうです。」
「当たり前だ。幼い頃から、プレッシャーのかかる場面では、いつもそうしてきたから、効き目は既に俺が証明している。」

真島くんがそう言うのなら、きっとそうなのだろう。
そんなことを考えていると、靴箱まで到着し、靴を履き替えると、近くから変な音が聞こえてきた。