「あ、いえ、なんでもないです。」
「言えよ。用事か?今日も劇の練習あるんだから、君のスケジュールは把握しておいた方が楽なんだよ。」

真島くんの言う通りだ。だからこそ、何も反論ができない。

「じ、実は、放課後までに、喫茶店のチラシを作らなくてはいけなくて…。」
「チラシ?そんなのさっさと作ればいいじゃないか。まだ午前中だ。今日は文化祭の準備に1日使えることになっているから、時間は沢山ある。」
「それはそうなのですが…。」
「何だ?まだ何かあるのか?」

私は恥ずかしいです思いを(こら)え、正直に言うことにした。

「…絵が下手なんです…。」
「え?」
「絵が壊滅的に下手なのです…!それはもう、見てはいられないくらいに…。」

真島くんに言ったことで、もしかしたら有効な解決策を見つけてくれるかもしれない。
そう思ったが、間違いだった。

「そんなの、気合いで描くしかないだろ。早く描け。」
「へぇ…!?」
「何だその驚きっぷりは。…まさか、俺が慰めの言葉をかけるとでも思ったか?」
「い、いえ、そんなことは…。」
「慰めの言葉をかけたところで、何の解決にもならないからな。今日も練習があるんだから、さっさと描け。1時間以内だ。」
「い、1時間以内ですかっ…!?」
「当たり前だ。まだ君だけ台詞を覚えきれてないだろ。」

そうだった。私以外の全員が台詞を完全に頭の中に入れた為、先日から練習場所が、多目的室かは体育館に変わった。
皆が動きの練習をする中、私もなんとか皆について行こうと思っていたが、台詞が完全に頭の中に入らず、途中で止まってしまうことが多くなってしまう。

「じゃあ、俺は体育館で他の仕事があるから。また1時間後に。」

そういう言うと、真島くんは、クールに教室から出ていってしまった。