「今日ね、珍しく早く起きられたから、ここに来てみたの!そしたら、タイミング良く藍ちゃんが出てきたから、びっくりしたよ〜!」

事前に連絡をしないで来るところがももちゃんらしい。私達がもう家を出ていたら、ただの無駄足になってしまうというのに。

「じゃあ、ももちゃんも一緒に行こうか。」
「うん!」

ももちゃんは鼻歌を歌いながら、スキップをしている。

「あ、藍。そういえば、真島くん、大丈夫?」

陽芽が言った。
陽芽が知っているということは、もう隣のクラスにまで噂が流れてしまっているということだ。

「あ…、うん。私は真島くんを信じてるから。」
「そう。それなら安心した。きっと広大くんも、藍に1番信じて欲しいはずだよ。」

そうだといいけれど。

「え?真島くん、どうかしたの??」
「え、ももちゃん、知らないの?クラスの女子達が噂してたでしょ?」
「噂?」
「真島くんが暴力事件を起こしたって…。」
「そんな噂があるんだ〜。全然知らなかった。」

真島くんの噂が初めて流れた日の朝、明らかに教室の空気は重たかった。確かあの時、ももちゃんは既に教室にいたはずだったが、あの空気感で全く気が付かないのは…。流石(さすが)ももちゃんだ。
この前、私は真島くんに天然だと言われたが、ももちゃんの方が、よっぽど天然だと思う。

「でもきっと、あの噂は嘘だと、私は思ってる。」
「藍ちゃんがそう思うなら、きっと嘘だね。」
「うんうん。それに広大くん、そんな人に見えないし。」
「皆…ありがとう。」

やはり、普段から真島くんと関わりを持っている人は、真島くんがそんな人ではないと信じていてくれている。
でも、彼はあの噂が本当だと言っていた。
どうしても、それが引っかかる。