あの噂が広まった事にも、理由があるのだと思う。そうでなければ、何事も無く、普通に生活していた真島くんに突然あのような噂が流れたのは不自然だ。誰かが意図的に流したとしか考えられない。

「無理するな。暴力とか…、君は特に苦手だろ。こんな俺とはもう、関わらなくて良いから。」
「私は真島くんを信じています。真島くんは人に暴力を(ふる)ったりするような人ではないです。」

確かに、クラスメイトの女子が言っていたように、真島くんは無口で何を考えているのか、よく分からない。
初めて話した日も、とても素っ気なかったし、勉強の教え方はとても厳しかった。
でも、彼はとても人想いだ。それだけは、パートナーとして一緒に活動してきたから分かる。
厳しくされたのも、私にテストで30点以下を取らせない為であったし、遠足の時は、転んで怪我をした私をおぶってくれた。一緒にゴールする為に。
そんな彼が、人に危害を加えるような人には、どうしても見えない。

「あの噂は本当だよ。」
「えっ…。」
「俺が、ある女子の胸ぐらを掴んで、殴ろうとした。そして、1週間の出席停止。全て事実だ。」
「そんな…。」
「ほら、見損なっただろ。」

もし、あの噂が本当だったとしても…。それでも私は、その噂を信じることができない。そのまま飲み込むことは、どうしてもできないんだ。

「いえ。あの噂がもし本当なら、そうしなければならない理由があったのだと思います。やっぱり私は、真島くんが無条件で人に手を出すとは思えないのです。」

私がそう言うと、真島くんは深い溜息をついた。