「え、えっと、この質問は別に深い意味は無くて、その、桃野さんが答えたくなければ、答えなくても大丈──」
「藍ちゃん。」
「え?」
「湖川藍ちゃん!知らないの!?同じクラスだよ!!」

桃野さんが先程とは別人になったかのように、身を乗り出し、目を輝かせながらそう言った。あまりにも予想外の反応に、僕は狼狽える。

「こ、湖川さんね、勿論知っているよ。」

知っているも何も、湖川さんは、僕が気になっている相手だ。これを機に、ミステリアスな彼女のことを少しでも知ることができるかもしれない。それに、彼女の話題を通して、桃野さんとの会話を続けることもできそうだ。

「私は藍ちゃんと小学校が同じだったの。」

そうだったのか。彼女は休み時間、いつも1人でいるから、てっきり親しい人はいないのかと思っていた。いや、待てよ。桃野さんは湖川さんの友達なのに、どうして休み時間に一緒にいないのだろう。友達にも様々な形がある。だから、仲が良いからといって必ずしも休み時間に一緒にいなければいけないわけではない。
しかし、やはり気になり、さり気なく探ってみることにした。

「湖川さんと桃野さんが一緒にいるイメージはあまり無かったから、驚きだ。」
「私は園芸部に入っていて、昼休みは花の水やりがあるから、なかなか教室にいられなくて。」

湖川さんの話を通してだが、桃野さんが初めて自分のことを話してくれて、安心した。

「でも、それ以外の休み時間は、藍ちゃんの読書をできるだけ邪魔しないようにしているの。」
「読書。」
「そう。藍ちゃんは本の中でも小説が特に好きでね、毎月10冊以上は読んでるんだよ。」

そんなに読んでいるのか。毎日本には同じブックカバーを付けていたから、月に10冊以上も読んでいるとは気づかなかった。