舞台の練習が始まってから何日か経った日の朝、学校へ登校すると、教室の前で真島くんを見つけた。

「あ、おはようございます。」
「……。」

真島くんは、こちらを振り向きもせず、無言で閉じられた教室の扉の前で突っ立っている。
聞こえる声で挨拶をしたつもりだったが、もしかしたら聞こえていなかったのかもしれない。
もう一度挨拶をしようと思った時、教室の中から、クラスメイトの声が聞こえてきた。

「えー!真島くんって、そんな人だったの!?」

紛れもなく、クラスメイトの女子の声だ。名前はうろ覚えだが、クラスでも目立っている方であるから、顔は覚えている。

「私もビックリしたよー。まさか真島くんが中学生の時に、暴力事件を起こしていたなんて。」

暴力事件…?

「しかも、暴力を(ふる)った相手は、女子なんだって〜!」
「えー!?マジ!?か弱い女子に手を出すとか最悪じゃーん!」
「イケメンだから、好感度高かったんだけどな。私、完全に騙されてたわー。」
「私もー。でもさ、いつも無口で、何考えてるかよく分かんない感じだったよね。」
「確かに!」

クラスの女子は、好き勝手言って、トークを楽しんでいる。扉の向こうで本人が聞いているとも知らずに。

「あの、真島くん。…大丈夫ですか…?」

そう聞いても返事が返って来ない。表情は見えないが、オーラで分かる。
彼はいつも、濃い灰色をしているが、今はいつにも増して、黒に近い色をしている。