「良かった。笑ってくれた。」
「えっ?」
「言ったでしょ。湖川さんが笑ってくれたら、嬉しいんだって。」

あまりにもストレートな言葉に何も言えなくなってしまう。

「あ、えっと、ごめん!あの時、『ずっと一緒にいて欲しい』とか、そう言ったのは、別に深い意味はなくて、そ、その、告白とかじゃないから…!」
「分かってますよ。友達として、ですよね?」
「あ、うん。」

そんな勘違いをするはずがない。佐倉くんと私は、ただのクラスメイトなのだから。
正確に言うと、私は友達だと思っているが、彼はきっとそうは思っていないと思う。
佐倉くんは、誰彼構わず、助けたいと思った人を助けるのだろう。私が特別なわけではないことくらい、分かっている。

「話は以上です。では、また明日。」

私はスクールバッグを手に持ち、教室を出ようとした。

「あのさ。」

途中で佐倉くんに呼び止められ、振り返る。

「あの…、あのさ…。湖川さんは本当に真島くんと…キ…。」
「真島くんと、き??」
「あ、いや、やっぱり何でもない。呼び止めてごめん。」
「いえ。」
「じゃあ。また明日。」
「はい。」

今度こそ私は教室を出た。
一体彼が何を言おうとしていたのか気になる。
同じ教室を出て、校門を出るまでは同じ道のりなのだから、一緒に帰ることもできたはずなのに。
私はそれをしなかった。
いくら佐倉くんともっと話がしてみたいとは言っても、自主的に目的の無い会話をするのは、まだ少し怖いのかもしれない。
でも…、
『まあ、ゆっくりでいいさ。』
ひいおばあさんがそう言っていたように、私はゆっくりでも、前に進んでいこうと思う。