「佐倉くんは私を励ましてくださったのに、私は、『触らないで』や、『優しくしないで』など、そんな酷いことを言ってしまいました…。」
「そんなこと、気にしてないよ。」
「佐倉くんが気にしていなくても、私が気にします。」
「そうか。じゃあ、気にしなくていい。」
「でも…。」
「僕が勝手に湖川さんを助けたいと思って、勝手に助けただけだから。」

例えそうであったとしても、迷惑をかけてしまったことに変わりはない。

「どちらかというと、謝らなければならないのは僕の方だよ。」
「…どうしてですか?」

彼は何も悪いことをしていない。謝る必要は無いはずだ。

「僕は湖川さんの涙を消し去りたかったんだ。」
「それは良いことです。」
「いや、やり方がとても強引だった。パートナーでも何でもないのに、抱きしめてしまった…。」

そうだ。私は佐倉くんに抱きしめられてしまった。あの時の温もりを、今でも覚えているけれど、思い出すと平常心ではいられなくなってしまいそうだから、敢えてあまり思い出さないようにしている。

「もっと他のやり方があったはずなのに、僕は思いつけなかった。だから、謝らなければならない。ごめんなさい。」

彼が頭を下げた。

「そんな、謝らないでください。」

元々謝っていたのは私の方だ。どうして2人で謝り合っているのだろう。
そう考えたら、少し可笑(おか)しくて、思わず少しだけ笑ってしまった。