「貴方、今、姉の悪口を言っていましたね？」

彼女は笑顔をキープしているが、その雰囲気は怒りに包まれている。

「あ、えっと…、それは、その…。」
「後でた〜っぷり言い訳を聞かなくてはですね。ふふっ。」
「ひ、ひぇ！」

湖川さんの双子の妹ということは、彼女も湖川さんのような、ほかの女子とは違う、異質で、心惹かれる雰囲気を持っているのかと思ったが、どうやら違うみたいだ。
そんなことを考えていると、彼女と目が合った。
なるほど。本田くんが言っていただけあり、とても綺麗な顔立ちをしている。そして、どことなく湖川さんに似ている。

「貴方は、懸くんの友達？」
「はい。一応。」
「おい！蛍貴！一応って何だよ、一応って！」

本田くんには悪いが、同類だと思われたら、たまったものではない。

「貴方も姉のことをあまり良く思っていないの？」
「そんなことありません。」

つい、即答してしまった。

「じゃあ、どう思ってるの？」
「どうって…、それは、その…とても一言では言い表せません。」
「へえ。」

彼女が意味深に微笑んだ。

「もしかして貴方、姉に恋してるの？」
「え、そ、そんな恋とかでは…！」

あまりにも突然の質問に、僕は狼狽狼狽(うろた)える。
確かに、他の女の子とは違って、気になる存在ではある。しかし、それが恋愛感情かどうかと言われたら、それは違うのではないかと思う。
それに、この学校でパートナー以外の人に恋をするのは、あまり意味の無いことだ。

「その表情、もう認めているようなものじゃない。」

彼女が小声で何かを呟いた。

「まあいいや。貴方、名前は？」
「佐倉蛍貴です。」
「桜ケーキ…？」
「初対面の人には、よくそうやって揶揄(からか)われます。」
「揶揄ってなんてないよ〜。」

彼女はそう言うと、本田くんの腕を掴んで引っ張った。

「じゃあ、本田くんから言い訳を聞かなくちゃいけないから、私達はこれで。」
「ひえぇ！お許しを〜。」

本田くんが嘆(なげ)くが、彼女は全く動じない。

「じゃあまたね。姉のことが好きな、桜ケーキくん！」

やはり、揶揄われている。
そう思ったが、特にツッコミは入れなかった。
僕もそろそろパートナーのところへ行かなくてはならない。
“桃野奏風”
同じクラスだが、彼女のことはよく知らない。一体、どんな子なのだろうか。