いや、待て。落ち着け。一旦冷静になろう。
今、ここには桃野さんがいる。こんな所で謝ったら、僕が湖川さんを抱きしめてしまったことがバレてしまうかもしれない。
桃野さんにその気は無いと思うが、一応、パートナーだ。そんな浮気のようなことをしたと知られたら、今後の関係に支障が出てしまうかもしれない。

「あ、え、ええと、きょ、今日はいい天気だねぇ。」

駄目だ。誤魔化し方が下手過ぎる…。

「そ、そそそ、そうですねぇ。」
「う、うん。」
「あ、あの、そそ、そう言えば、小説の感想、また今度言いますね。」

湖川さんがそう言った瞬間、桃野さんがこちらを振り返った。

「小説?」

湖川さんが、“しまった”という表情をしている。
僕が小説を書いていることは、僕と湖川さんだけの秘密だ。

「あ、いや、何でもないよー、ももちゃん。」

桃野さんは、こちらをじいっと見つめている。

「怪しい。」
「え?ど、何処が?」
「なんか今日の2人、怪しい!何かあったでしょ!」

まさか、桃野さんに勘づかれてしまうとは…。

「私、意外とそういうの敏感だからね。ふふ〜ん。分かっちゃった。2人の秘密。」

桃野さんは、天然なところがあるからと、完全に油断していた。

「2人はねぇ〜、」

僕はゴクリと喉を鳴らした。