「あ、そうだ。2つだけ言い忘れたことがあった。」
「何ですか?」
「藍、佐倉くんに、本当のことを言わなくていいのかい?」

それは、自分でも少しひっかかっていた。
けれど、伝え方が分からない。以前、遠足の話し合いをしているときも、咄嗟(とっさ)に嘘をついてしまった。

「言わなくていいのです。」
「それはどうして?」
「それで佐倉くんに、迷惑をかけたくないからです。」
「彼なら迷惑だなんて思わないよ。きっと喜んでくれると思う。」
「確かに、そうかもしれません。」

そうかもしれない、けれど…。

「だとしても、言わなくていいのです。」

言ってしまったら、私達の間に特別な意味が生まれてしまいそうで、怖い。私はまだ、そこまで踏み出す勇気がない。

「まあ、藍がそう言うなら、それでいいよ。」
「はい。」
「それからもう1つ。」

そう言うと曾祖母は、突然真剣な表情になった。

「黒いオーラに気をつけて。黒は突然やってくる。」

私はそのフレーズを以前にも聞いたことがあった。
そう。初めて曾祖母に会った日も、同じことを言っていた。もしかしたら、何か意味があるのかもしれない。

「じゃあ、それだけだから。藍、これからも高校生活を楽しむんだよ。」


曾祖母は、そう言うと、何処かへ向かって歩き出した。
もし、この後を追ったら、新しい世界を見つけられるかもしれない。
そう思ったが、追いかけることはしなかった。
私は先ず、この眠りから覚めて、佐倉くんに謝らなければならない。

「ひいおばあさん、ありがとうございます。」

聞こえるか聞こえないかくらいの声で、呟いて、私は再び目を閉じた。