「私は軽度の男性恐怖症です。」
「男性恐怖症?」
「はい。」
「だからか。」

だから距離を取られているのか、ということだろう。

「重度ではないので、必要最低限程度であれば、会話は可能です。しかし、もう誰かを好きになることは一生できないと思います。」

彼は真剣な表情で話を聞いていた。
オーラは濃い灰色だし、口も悪いけれど、本当は真面目で悪い人ではないということを、直感で理解できた。

「でも、いつか結婚はしたい。恋愛はせずに結婚したい。だからこの高校に通うことを決めたんです。つまり、初めから恋愛は求めていません。」
「そうか。それなら、俺のことも好きにはならないということか?」

『はい。』と答えたかったが、パートナーに面と向かってそう言うのは失礼なのではないかと思い、躊躇(ためら)った。

「あの…最低限は努力しますので…。」
「その必要は無い。」

彼は表情を1つも変えずにそう言った。

「俺も同じだ。特別女性が苦手なわけではないが、初めから恋愛なんて求めていない。だから、君も努力しなくていい。俺達は、『AIが決めた相手』という繋がりを持っているだけだ。月に1度の顔合わせだけ行って、それ以外は干渉しない。それでいいか?」
「問題ありません。」

むしろラッキーなことだ。AIはここまで計算していたのだろうか。恋愛せずに結婚する。私にぴったりな相手である。

「じゃ、また来月に。…と思ったけど、確か同じクラスだったな?」
「そうでしたか…?すみません。まだクラスのほとんどの人の顔と名前が一致していないので…。」
「そうか。まあ俺も全員を把握しているわけではない。じゃあ、同じクラスだったら、また明日。」

彼はそう言うと、背中を向けて、1度も振り返ることなく、去っていった。
私も同じように彼に背を向けて、1度も振り返らなかった。