「わ〜〜!蛍貴ごめん!!止まれんかったわ!」
「ちゃんと止まれるように速度を考えながら走ってきてよね。」
「ごめんごめん。」

ごめんと言いつつ、ヘラヘラと笑っているから、きっとまたいつか同じ失敗をするのだろうと思う。本田くんはそういう人だ。
僕は、ぶつかった拍子に落としてしまった封筒を拾い上げる。

「そんなに慌ててどうしたの?」
「最近、蛍貴がつるんでくれねーから、妬いてんの!」
「え?」
「隣にいる、真島広大?だっけ?最近この人とばっかり一緒にいる!俺も仲良くしたいんだけど!」

本田くんがそのように思っていたとは知らなかった。彼はコミュ力が異常に高いから、友達が沢山いる。けれど、その中でも僕にはかなり懐いてくれているのかもしれない。

「つーか、蛍貴、お前ら付き合ってるらしいな!俺を差し置いて〜!くそぉ!もうチューとかしたのか??」
「え!?」
「してない。そもそも俺達は付き合ってない。」
「マジ〜!?」

本田くんが大きな声で叫んだ。

「皆〜!聞けよ!!蛍貴と広大は付き合ってないらしいぞ〜!!」

その声は、廊下中に響き渡り、一気に僕達に皆の視線が集まった。

「ちょっと本田く──」
「チューもしていないそうで〜す!!」

僕が止めようとするが、本田くんは止まる気配を一切見せない。
このままだと、事が大きくなってしまう。

「真島くん、逃げよう。」
「え?」
「こういう時は逃げるのが1番最良の方法だと、長年の経験から知っている。」

本田くんは単純だから、逃げれば、一先ず叫ぶのを辞めて、追いかけることに集中するだろう。

「分かった。」

そして、僕と真島くんは走り出した。
勿論、廊下は走ってはないけないのは分かっているけれど…。

「あ〜!おい、逃げるなよ!やっぱりホントはデキてんのか!?」

本田くんの言葉を完全に無視して、目的地の体育館へと急いだ。