「ごめん。」
「何が?」

彼が首を傾げた。

「ごめん。この前体育館に閉じ込められた時、僕が湖川さんを好きかどうかという質問を誤魔化したけど、やっぱりちゃんと言う。」

心の中で深呼吸をする。

「…好きだ。僕は湖川さんが好きだ。」

僕は頭を下げた。
嫌な顔をされるだろうか。分からないけれど、きっと、良い気分はしないだろう。殴られても、罵倒されても良い。そのくらいの覚悟は持っている。

「やっぱり。」

真島くんの低くて小さな声が聞こえた。

「えっ…?」
「じゃあ、ライバルだ。」

ライバル…?ということは、真島くんも湖川さんのことが好きなのだろうか。いや、でも…。

「真島くんは、湖川さんと形だけの関係だと言っていなかった?」
「その通りだ。」
「それなら、どうしてライバル?」

僕が聞いた瞬間、真島くんの目力が強くなったような気がした。
真っ直ぐにこちらをじっと見つめている。

「俺はあの子と結婚したいから。その為なら、好きになることだってできる。」

ということは、現在はまだ好きではないけれど、好きになる努力をしているということだろうか。

「だからライバルだ。ま、ライバル同士これからも仲良くしてくれ。変な気を遣う必要は無い。分かったな?」
「あ、うん…。」
「じゃあ、またな。」

真島くんはそう言うと、今度こそ僕に背を向けて、そのまま去っていった。
怒らないのだろうか。僕にはパートナーがいて、それにも関わらず、彼のパートナーを好きになってしまったのに。
こんな自分勝手な僕を、軽蔑(けいべつ)しないのだろうか。
不思議な感じはするが、でもきっと、それが真島くんなのだろう。