どうやらオーラが見えるわけではなさそうだ。
では、“黒”というのはオーラでなく、何のことだと思ったのか気になるが、彼が悲しみと怒りが混ざったような複雑な表情をしていた為、聞けなかった。きっと、彼の中で隠したいことなのだと思う。

「で?俺のオーラは黒なのか?」
「あ、いや、黒というよりは、濃い灰色という感じです。」
「へえ、グレーねえ。黒にも白にもなりきれない、中途半端なグレー。俺らしくてぐうの音も出ないな。」

彼が自嘲気味(じちょうぎみ)にそう言った。
その時、一瞬だけ彼のオーラが灰色から濃い青色へと変化したことに気がついた。私はその場で固まる。
オーラが見えるようになってから今まで、色々なオーラを見てきた。オーラには様々な種類があり、その日の体調や気分によって、色が濃くなったり薄くなったりすることは、誰にでもよくあることだ。しかし、このように色そのものが変わってしまうのは、初めて見た。特殊な体質なのだろうか。それとも──

「ところで。」

彼と視線がぶつかる。気づいたら、オーラは元の濃い灰色に戻っていた。

「どうしてさっきから君はそんなに遠くで喋るわけ?」

彼と私の間の距離のことだ。お互いに向かい合って話しているが、その距離は2メートル程空いている。2人で話すには遠すぎる距離であることを、彼は指摘したのだろう。

「ソーシャルディスタンスってやつか?」
「あ…えっと…。」
「いや、別にいいんだ。距離取りたいなら取ってくれれば。」

失礼ではないだろうか。これでも一応、将来結婚する可能性の高い、パートナーなのだから。

「じゃあ、もう1つ質問。」
「はい。」
「君、恋愛をする気はあるか?」
「えっと…?」
「恋人を求めてこの高校に来たのか?」
「いえ。」

これからパートナーとしてやっていく人だ。こんなところでつまらない嘘をついても仕方がない。
私は正直に答えることにした。