「ち、違うよ!!え、僕達のこと、恋人だと思ってたの…!?」

湖川さんは、恥ずかしそうに無言で(うなず)いた。

「はい。それに今日のお化け屋敷のペアを決める時、真島くんとお兄ちゃんで、佐倉くんの取り合いをしているように見えたので、てっきり三角関係なのかと…。違うのですか…?」
「違うよ。」

体育館に閉じ込められた時のハプニングが、噂に尾ひれをつけて、もう湖川さんにまで回ってきていることが驚きだ。夏休みが終わったら、僕と真島くんは、そのような目で見られる可能性がある。
でも、湖川さんの誤解を解くことができたから、後のことはどうでもいい。

「良かった…。恋人同士じゃなくて。」
「えっ?」
「私、邪魔者になってしまうかと。」
「そんなことないよ。」

むしろ逆だ。真島くんの気持ちはよく分からないが、桃野さんも含めて、今は複数人で湖川さんを取り合っているような状態だ。
僕だって、機会があるのなら、もっと彼女と話してみたい…。

「ありがとうございます。」

湖川さんが薄ら微笑んだ。
裕さんの言っていた通り、湖川さんは変わり始めているのかもしれない。出会った当初より、笑顔が増えたような気がする。

「あ、そんなことより、佐倉くん、今手に持っている小説はなんですか?」

先程、落としてしまった小説だ。かなり慌てていたから、うっかり鞄の中に仕舞うのを忘れていた。

「えっと…。」

実は、その件に関してはあまり触れられたくなかった。