「ねえ、僕がいなかった間、何かあったの?」

正直、告白どころではなかった。藍がここまで変わってしまった理由を、僕は知らなくてはならない。

「特に何も無いよ。普通だった。」
「そんなわけないでしょ。」
「本当だよ。」

僕は藍を見つめる。やはり何の感情も抱いていないような目をしている。それでも、どこか悲しそうで、僕と目が合うことはなかった。
僕は3年前まで藍が落ち込む度にしていたように、藍の頭を()でようとした。
しかし、その瞬間、藍は目を(つぶ)り、後ろへと身を引いた。つまり、拒まれてしまった。

「ご、ごめん…。」

あまりにも突然のことに、動揺を隠せない。

「違う…私の方こそごめんなさい。あの、今日はもう…帰って欲しい。」

頭が真っ白になる。帰って欲しいだなんて、生まれて初めて言われた。

「待ってよ…!帰って欲しい理由が知りたい。僕、何か藍の気に触るようなこと、したかな?」

心当たりは無い。けれど、強いて言うなら、この3年間、1度も地元に戻らなかったこと。それを怒っているのかもしれない。
しかし、藍は首を振った。そして、静かに言った。

「お兄ちゃん。私、お兄ちゃんが帰ってきてくれて、また会えて嬉しい。でも、もう以前のようにはできないかもしれない。ごめんね…。」

ショックが大き過ぎて、思考が上手く回らず、ただその場に立ち尽くすことしかできなかった。3年の間に、藍は全くの別人のようになってしまった。
おそらく、僕がいなかった間に、藍の身に何かが起きた。人格を曲げてしまうほどの何かが…。
悔しい。僕は、あの時、藍を傍で守ると誓ったのに。感情が抑えられなくなったからといって、自分の勝手な都合で、藍から離れたんだ。
きっと、一生後悔しても、しきれない。