「えっと、どういうこと？」
「湖川くん、他に好きな人がいるでしょ？」
「え。」

まさか彼女の口から、そんな言葉が飛び出るとは思っていなかった。
だって、この3年間、僕はずっと彼女のみに尽くしてきた。特に他の女子と仲良くしていたというわけでもない。
そして、彼女の前で、藍の“あ”の字さえ発さなかったというのに。

「どうして…。どうしてそう思うの？」
「そんなの、見ていれば分かるよー。」

彼女は、ニコッと作り笑いを浮かべた。

「確かに湖川くんはとても優しかったけど、本当に私を見てるのかなって、いつも疑問だった。」
「僕が他の子を見ていたことあった？」
「そうじゃなくて。優しくする時、いつも誰かと私を重ね合わせているような…そんな感じがしたの。」

その言葉を聞いた時、冷や汗が出るのを感じた。
僕はずっと、彼女を見ているつもりだったけれど、違ったのかもしれない。本当は、心の何処かで、いつも藍のことを考えていた。顔合わせをする場所を決める時も、プレゼントを選ぶ時も、『相手が藍だったら』なんて思うことが沢山あった。

「僕は最低なパートナーだ。」

大きな溜息をつきながら言った。
相手に尽くしていると思いながら、他の女の子のことを考えて。しかもそれを相手に気づかれてしまうなんて。

「そんなことないよ。」
「そんなことあるよ。」
「ううん。だって私、嬉しかったもん。例え私に向けられていなかったとしても、湖川くんが、これでもかっていうくらい優しくしてくれて、本当に嬉しかった。」
「でも──」
「だから、その、好きな子のところ、行ってあげて。」