痛…くない。病院送りになる覚悟を一瞬でしたが、身体に痛みは無い。不思議に思い、恐る恐る目を開いた。

「っ…!!」

見ると、真島くんが僕に(おお)(かぶ)さる形で倒れている。

「…大丈夫か?」
「僕は大丈夫だけど、真島くんは?」
「何とか逃れられたみたいだ。」

真島くんの声が直ぐ近くから聞こえる。
今更気がついたが、こ、この体制って──
その瞬間、体育館倉庫の扉から、“カチャリ”という音が聞こえ、扉が開いた。

「誰かいる…キャーーー!!!」

扉を開けた人物が悲鳴を上げた。

「ま、真島くんと佐倉くん…!?え、え!?こんな所で…、は、破廉恥(はれんち)!!」

その声を聞いて、真島くんが慌てて僕から離れ、袴を着た。後から僕も起き上がる。
扉を開けた女の子は、かなり取り乱しているが、無理もないだろう。
体育館倉庫を開けたら、僕が上半身裸の真島くんに押し倒されていたのだから。驚いて当然だ。

「これは事故なんだ。上から跳び箱が落ちてきて──」
「おーい、どうかしたのかー?」

彼女の悲鳴が周囲の人にも聞こえていたのか、体育教師までやって来てしまった。

「佐倉と真島?」
「先生!この2人、ここでイケナイことを──」
「違います!すみません。ここの整理をしていたら、鍵を閉められてしまって…。」

僕がそう言うと、先生は、ハッとしたような顔をした。

「ごめん!鍵閉めたの俺だ!」

え?

「まさか人がいるなんて!ごめん!!」

先生が頭を下げる。

「どうかこのことは、校長や教頭や理事長には黙って置いてくれ!俺の首が飛ぶ!」
「僕達が1限を自主的にサボったことにしろということですか?」
「後で高級なお菓子をプレゼントするから!」

僕は内心で溜息をついた。
まあ、どうせ1限はあのおじいさん先生だから、いないことすらバレていないと思うけど。

「分かりました。」
「本当か!?ありがとう!!この恩は必ず返す!ということで、2人とも、教室に戻って、水分をよく取りなさい。」
「はい。」