「暑いね。」

このまま1時間、沈黙を貫き通す勇気は無く、僕は適当な会話を続けることにした。

「暑いなら脱げばいい。」
「えっ…、ぬ、脱ぐって…!」

僕が動揺していると、隣で真島くんは、するすると袴を脱いでいく。

「ちょ、ちょっと、真島くん、な、何してるの…!?」
「何って?袴が暑いから、脱ぐことにした。」
「えっ…!?」
「大丈夫だ。脱ぐのは上だけだから。」

そういう問題ではないような…。
真島くんは、上半身の袴を脱ぐと、それを肩から羽織るようにしてかけた。
彼の腹筋は、綺麗に割れていた。シックスパックというやつだ。日頃から(きた)えているのがよく分かる。

「君も暑ければ脱げばいい。」
「僕はYシャツだし、半袖だからいいよ。」
「そうか。」

適当な言い訳を並べて、僕はそのままでいることにした。真島くんは、そんな格好をして、恥ずかしくないのだろうか。僕は肌を露出するのがあまり得意ではない。自分の身体に目立ったコンプレックスがあるわけではないけれど、なんとなく苦手だ。中学の時まで、体育の授業で水泳が行われていたが、いつも憂鬱(ゆううつ)だった。

「そんなことより、君に聞きたいことがあるのだが。」

真島くんが言った。

「聞きたいこと?」
「ああ。こうやって2人きりになる機会も少ないだろうし、今が1番最適だ。」
「答えられる限り、何でも答えるよ。」

真島くんの表情が真剣になり、何だか嫌な予感がする。それなのに僕は、また『都合の良い子』の返事をしてしまった。

「君は、俺のパートナーのことが好きなのか?」

僕は激しく動揺した。