「やっぱり今朝のこと気にしてたのか。」
「気づいていたのですか?」
「まあ、今日一日、何だか君の様子がおかしく見えたから。」

まさか気づかれていたとは。あれこれ悩んでいないで、もっと早く聞いていればよかった。

「ごめんなさい。」
「いや、俺がちゃんと説明していなかったのも悪い。別に君のことが嫌いなわけではないんだ。」

その言葉を聞いて、取り敢えずは安心した。私達はパートナーだから、もし、どちらかが相手のことを嫌いだと思っていたら、今後の高校生活は、かなり苦しいものになってしまうだろう。

「では、どうして『結婚できないかもしれない』と言ったのですか?」
「結婚したくないからできないかもしれないんじゃない。したくても、できないかもしれないんだ。」

そうか。確かに彼は、『できないかもしれない』と言っただけで、『したくない』とは言っていなかった。勝手に悲観的に考えて、私のことが嫌いなのではないかと決めつけてしまっていた。

「少し面倒な理由があってな。いつかは言わなくちゃいけなかったんだが、タイミングが難しかった。」

彼はそう言うと、その場で立ち止まり、私に背を向けた。そして…、

「俺、許嫁(いいなづけ)がいるんだ。」

今にも消え入りそうな声で、呟くように、そう言った。