まさか先に上がった彼が、勝負をここまで真剣に見ているとは思わなかった。

「ええ〜!お前めっちゃ頭良いじゃん!スゲーよ!ってか蛍貴、俺が可哀想だから、わざと負けようとしてんのか!?」
「それとも、湖川さんに告白したいとか…?」

まずい。僕と湖川さんが噂になれば、彼女に迷惑をかけることになる。それは避けたい。しかし、本田くんが可哀想だからと言い訳したところで、本田くん本人は騙されるだろうが、他の2人を騙せるとは思えない。
どうするか迷った挙句、僕は口を開いた。

「そっか…!!確かに…!!全然気づかなかったよ。危うく負けるところだった。教えてくれてありがとう。」

精一杯演技をして、笑顔を浮かべた。
なんとか騙されてくれ。
恐る恐る彼の表情を見ると、笑顔を浮かべた。

「何だ。佐倉って、意外と天然なところがあるんだな。クールだからしっかりしているように見えてたけど。」

良かった。なんとか騙すことができたみたいだ。

「お前〜!何いらないこと言ってんだよ〜!そのまま蛍貴が気づかなければ、俺が勝ってたかもしれねーのに!!!!」
「悪ぃ悪ぃ。」

次は本田くんの番だ。正直ここで本田くんに勝って欲しい。

「行くぞ、蛍貴。」

次に僕の番が回ってきたら、もう先程までの手は使えない。運で勝負をしたら、勝ってしまう可能性がある。どうしたらいい?どうしたら負けることができる?運に任せるしかないのだろうか。いや、そんなに簡単に諦めては駄目だ。今までの本田くんの戦い方を思い出せ。
僕は必死に思考を巡らせ、本田くんの行動を分析する。そして、ある事に気がついた。
そうか。先程から本田くんは、自分の番の時は、必ず指を立て、他の人の番の時は、指を立ていなかった。それはきっと、意図的にやっていたことではない。自分の番の時は、声を出すから、それと一緒に自然と指を立ててしまう。反対に他の人の番の時は、力が入り、指をおさえてしまうのではないだろうか。小さい頃から本田くんと関わってきたから分かる。彼は、どんな時も感情に動かされる人間だ。しかし、『1』と言うか『2』というかは分からない。そこだけは、運に任せるしかない。

「指スマ!」

僕は覚悟を決めた。

「2!!」

立てられている指の数は2本。
僕は心の中で微笑んだ。

「残念。僕の負けだ。」