「高瀬AI研究所附属高校に通いながら恋をするのは、とても苦しくて辛いことだ。君にはその覚悟があるか?」
「覚悟…?」
「ああ。藍のパートナーを蹴落とし、君のパートナーを裏切る覚悟だ。」
「そんな覚悟はありません。」

僕はきっぱりとそう答えた。
予想外の反応であったのか、裕さんは言葉を失ったような表情をしている。

「僕は真島くんを蹴落とすつもりはありませんし、桃野さんを裏切ろうとも思っていません。ただ、僕は彼女と話がしたいだけなんです。」
「話がしたい…?」
「はい。ただそれだけです。」

そう言うと、彼は下を向いた。

「そう。君がそう思っているならそれでもいいよ。」

よく表情が見えないが、(あき)れたように、そう言われた。
それから、彼は顔を上げると、先程の威圧感のある表情からは考えられないくらい明るい笑顔で僕に笑いかけた。

「ってことで、今後とも宜しくね!け〜いくんっ!」

彼が右手を差し出しているが、あまりにも激しい表情の変化に驚き、僕は思わずその場で固まってしまった。

「この前みたいな乱暴なことはしないから、警戒しないでよ〜。」

そう言われ、僕は恐る恐る裕さんの手を握った。
感触は普通で、一先(ひとま)ず安心する
裕さんは、満足そうな笑みを浮かべた。

「ライバルだけど、蛍くんの人柄は気に入った!」

だから、ライバルなどではないのに。

「じゃあ、僕達もお昼にしよう?」
「はい。」

目の前で裕さんが家のドアを開く。
やっとお昼が食べられる。