「君、藍に恋心を抱いているよね?」
「えっ…!?」

まさか、そんなことを尋ねられるとは思っておらず、驚いた。

「こ、恋心って…。」
「藍のことが好き。そうだよね?」
「そんなことは…。」

そんなことはない。何度でもそう言いきれる。これは恋心なんかではない。
僕は昔から、自分の意思を主張するのが苦手だった。この学校に入学して、変わろうと思ったけれど、自ら注意をした男子には煙たがられて、やはり僕が自分の意思で何かを言ったところで、相手の心には響かないのだと諦めそうになった。でも、それを湖川さんが助けてくれた。だから、僕は彼女に感謝している。
そう、『感謝』。それだけ。だから、これは、恋ではない。

「まあ、自覚が無いならいいや。」
「自覚もなにも、僕は彼女に恋心は抱いていません。抱いているとしたら、畏敬(いけい)の念くらいですよ。」

畏敬の念。それが一番しっくりくるような気がした。

「蛍くん、君に一つだけ言っておこう。」
「何ですか?」

僕が聞くと、裕さんは僕に顔を少し近づけ、とても真面目な表情になった。