彼女と話しながら、どのくらい歩いただろうか。裕さんの家が、もう目の前に見えている。片道5分であるが、その道のりは、長かったような気もするし、短かったような気もする。
ふと目の前に見えている裕さんの家に目をやると、玄関に人影が見えた。

「ねえ、あれって…、」
「はい。お兄ちゃんです。」

どうやら彼はどうしても湖川さんのことが心配で、家の前で待っていたようだ。
裕さんは、湖川さんを見つけるや否や、こちらまで走ってやってきた。

「藍〜〜〜!!!!!無事で帰ってきてくれてありがとう!」
「無事って…、コンビニへ行っただけだよ。」
「さあ、早く入って、お昼にしよう!」
「あ、うん。」

そう言って、湖川さんが家の中へと入っていった。僕も入ろうとすると、それを裕さんに止められた。

「ちょっと、話があるんだけど。いいかな。」

彼は湖川さんの話をする時、子犬のような笑顔で話をしている。
そして、彼は今も尚笑顔だ。しかし、笑顔の種類が違う。湖川さんの話をする時のような、純粋な笑顔ではなく、何らかの含みのある笑顔だ。

「大丈夫です…けど…。」

何かまずいことをしたのだろうか。湖川さんは無事に帰ってきたし、荷物は僕が全部持った。怒られるような要素は何一つない。

「そんなに怖い顔しないでよ。僕と君は同士なんだから。」

強い威圧感(いあつかん)を感じ、萎縮(いしゅく)してしまいそうになる。

「同士とは…、どういうことですか?」
「分からないの?」
「はい。」

僕がそう言うと、裕さんは、小さく溜息をついた。