(うるさ)いのはどっちですか…。」

すぐ側で、小さな声が聞こえた。
声のする方を見ると、近くの席に座っている無表情の女の子だった。片手に小説を持っている。

「あ?誰だ、今なんか言ったの。」

1人の男子がそう言うと、彼女は両手で思い切り机を叩いた。

「煩いから黙れと言ったんです。」

決して大きいと言える声ではなかったが、とても真っ直ぐで、周囲に響く声だった。
そして、教室がしんと静まり返った。予想外の人物から予想外の態度で注意されたことから、ふざけていた男子達は、顔色を変えて、そそくさと自分の席へと戻っていった。
僕は、その場に(たたず)んだ。その瞬間、今まで1度も感じたことのない“何か”が胸の奥に湧き上がってきて、彼女から目が離せなかった。彼女のことを、とても美しいと感じた。
やがて、教室が元の空気に戻った。そして、僕は彼女に声をかけることにした。

「あの、ありがとうございます。」

その時に初めて、彼女の顔をじっくりと見て、鮮烈(せんれつ)な印象を受けた。
整った、綺麗な顔立ちだ。

「お礼は要りません。自分の為にやったことですから。」

彼女は表情一つ変えずに淡々とそう言うと、持っていた本を開いた。

そして、その日から、僕は彼女を目で追うようになった。純粋に彼女の存在が気になったのだ。彼女はどんな人なのだろう。彼女と話がしてみたい。そう思うようになった。