九羊の一毛



彼の受験生活は、相当過酷なものだったに違いない。
どれだけストイックに、必死に頑張ってきたのか、私は一番近くで見てきたつもりだった。


「玄くん、あの……」


結果は、どうだったんだろう。
上手な言葉が出てこなくて固まる私に、彼は「ああ」と微笑んだ。


「大丈夫、受かったよ。じゃなかったらださすぎて、今ここに来てない」

「ええっ、おめでとう……! すごい!」

「はは。ありがと」


いや、もう本当に。すごい。毎日すっごく頑張ってたもんね。報われて良かった。
純粋な尊敬と感動の眼差しで彼を見上げていると、そっと両手で頬を包まれた。


「羊ちゃん」


呼ばれて気付く。ああそっか、私の番だ。


「私も! 無事に受かりました!」

「そっか……良かった。おめでとう」


ほう、と心底安堵したように彼が息を吐いた。
どちらともなく体を離して、代わりに手を繋ぐ。


「……私たち、大学生になるんだね」


まだまだ想像できないし、卒業したことすら実感わかないけれど。
気温は少しずつ上がるし、朝は明るくなるのが早くなってきた。街並みも変わる。桜が咲いて、散って、その頃にはきちんと新しい生活に馴染めているんだろうか。


「うん、そうだね。……でも、」