九羊の一毛



彼の真似をしてそう言えば、目の前の顔がほんのり赤くなって、きゅ、と目尻が下がった。
何だか堪らなくなって、その瞼にそっと唇を寄せる。


「玄」

「……え、」

「好き」


私、世界で一番幸せなんじゃないかな。それがどんなにちっぽけな世界だったとしても。今だけはそう思いたい。


「羊、」


ああ、また。彼が泣いている。
私があげた愛でこんなにすぐ感極まってしまう彼を、きっともう、一生手放せない。

彼が私の手を握る。力強く、穏やかに。


「俺を好きになってくれてありがとう。愛してくれて……幸せにしてくれて、ありがとう」


心の底からの謝辞だった。
熱い手の平から彼の想いが流れ込んできて、胸を打つ。


「羊のおかげで、こんなにきらきらした人生になったよ。もう、本当に……俺、羊がいればそれでいいんだ……」


羊は俺にとっての太陽だから。
こつ、とぶつかった額。彼の口からそんな言葉が零れて、私は目を見開く。


「二人で、幸せになろう」

『玄くん、もう一人で頑張るのはやめよう。二人で、幸せになろうよ』


ああ――彼はきっと。もう一人で背負うのをやめたんだ。
これからはどちらか一方の痛みも苦しみも、二人で分け合っていけるんだね。


「うん……そうだね。二人で、頑張ろうね」