普段、男の人を相手にしているからか、髪をなでられようと抱きしめられようと、特別な感情を抱かなかった。

なのに、私が直樹の一撃を受け止めたあの時も。
クルーズ船で直樹に助けてもらった時も。
直樹が私を抱きしめる時は特別胸が高鳴る。

橙『俺の大事な女の子を襲うなんて、俺はお前を絶対に許さへんからな』

なんて、社長に対していつもの明るさが見当たらないほど怒鳴った時も、
特別な意味がないことはわかっていたのに、自分の存在が少しでも影響を与えているのかと思うと、
場違いながら嬉しいと思ってしまう自分がいた。

自分のことは、一番自分が理解しているつもりだ。
『吊り橋効果』だけじゃ説明できない何かがあるのは分かってるんだ。

『私が...直樹、を?』

独り言のように呟くと、優が少し不敵な笑みを浮かべてこちらを見ていた。