キャリーケースを開ければ、綺麗な女性が無残な姿で押し込まれていた。
顔の半分は、自分の血に染まり赤黒くなって目を閉じている。
あぁ、美しい。こんな綺麗な人が数時間前まで息をして、この世で生活してたんだね。
誰かに触れていたはずの指は冷たく、生臭い美しい肉の塊を、たっぷり堪能した後に燃やして灰にした。

「いいことあったんですか?」

昼間に美しい遺体の後処理が出来たと浮かれていた夕時、また1人の来客があった。

『んーん、ちょっとね』
「珍しい。今日はご機嫌ですね?」
『いつも不機嫌みたいな言い方して欲しくないわ笑』
「だっていつも紫ノ宮さんが何考えてるかわかんないんですもん、笑」
『ふは、そうかな?笑』

彼女は新米の刑事、天野 咲だ。
解剖や鑑識に回され、身元不明となった遺体の火葬をするためにここへ足を運ぶ。
最近、若い女性がゴミ捨て場や森の中で殺されている事件が多発しており、身元の引受ができない遺体を、彼女が代わりに立ち会って火葬するのだ。

『また今日も?』
「はい、お願いします」

手を合わせてから棺を開けると、絞殺の跡がくっきりと首に残った若い女性の遺体がある。
あぁ、美しい。さっきのあいつが持ってきた遺体より、絞殺の方が顔の保存状態が良いまま、見ることが出来るから。

「…紫ノ宮さん?」
『あ、ごめんごめん。歳の近い女性の遺体を見ると、なんだか胸が苦しくて…』
「そう、ですよね……。私が一刻も早く、犯人を逮捕します」
『うん、任せたよ。咲ちゃんも気をつけてね』
「こう見えて、私柔道黒帯なんで。襲ってきたら1発で投げてやりますよ!」

そう言って、ファイティングポーズをしてみせる彼女。

『ふはは、なら大丈夫だね?』

そう笑ってみせたけど、やはり何度見ても彼女の顔がぼやけていて、先程の死体よりは、はっきりと見えなかった。