担任の先生が急用で学校に来れなかった始業式の日、
私たちの教室に入ってきたのは2年の副担任だという数学の担当の高野智樹(タカノトモキ)先生。
「高野せーんせっ!お昼一緒にご飯食べませんか?」
「たかっち担任しないの?」
なぜか女の子からは人気。
身長175cmの細身の彼は世間一般的にかっこいいと言うのだろう。
正直私は苦手だ。
昔はもっとかっこよかった、と思う。
だけどそれは私が幼かったから。
少し先を歩く彼が大人に見えて、格好良く見えて。
「おおきくなったらともくんとけっこんするの!」
なんて言ってたっけ。
職員室を出て、少し回顧しながら歩いたところでポケットに入れたままのホッチキスの替え針の存在を思い出した。
「は、最悪」
そう愚痴を漏らして3段ほど昇った階段を降りて職員室に戻る。
「どうした?」
先生はコーヒーを飲み干して戻ってきた私を見てそう尋ねた。
「ん、置き忘れ」
それだけ言ってホッチキスの替え針の箱を机に置いて今度こそ帰ろうと先生に背を向ける。



