それでも、私は返事を出来なくて、店長から目を逸らすように俯いて目を伏せる。すると、目の前に綺麗なすずらんのブーケを差し出された。

「由香ちゃんなら、すずらんの花言葉、
 覚えてるよね?」

それは、もちろん覚えてる。すずらんの花言葉は、「純粋」「純潔」「謙遜」「再び幸せが訪れる」。

「子育てに不安を抱く純粋な由香ちゃんは、
 再び幸せになっていいんだ。
 いや、俺が必ず幸せにしてみせる。
 だから、俺と幸せな家族を作ろう?」

店長の紡ぐ言葉のひとつひとつが、固く閉ざしたはずの、私の胸の奥の扉を、優しくノックする。

俯く私の目からこぼれ落ちた滴が、ブーケのすずらんを揺らした。まるで、チリンと鈴の音を鳴らすように。

 私は、そっと両手を差し出して、そのわずかに揺れる白いブーケを受け取った。彼の優しい思いと一緒に。


彼と一緒なら……

彼と一緒なら、こんな私でも、いつかお母さんになれるかもしれない。

おばあちゃんと過ごしたあの日みたいに、他愛もないことで笑い合える、そんな家庭が作れるかもしれない。



 店長は、ブーケを握りしめる私の肩を、そっと抱き寄せた。肩に触れる大きな手。その温もりは、私がこの20年、ずっと欲していたものだったのかもしれない。



─── Fin. ───


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