玄関を出て、扉が閉まる音を背に、夏生の顔を青く広がる空に思い浮かべた。
――夏生。夏生はいま、どこでなにをしてる?
春に生まれた君の名前に夏が付くのは、夏まで生きられるかわからないと言われた両親が、生まれた年の夏まで、ううん、その先も永遠にやってくる夏を生きるようにと「夏生」と名付けたそうだ。
今年の夏は、すぐそこまで迫ってきている。
振り返って、夏生の部屋を見上げた。
ずっと暗い、音のないままの夏生の部屋。夏生の家。
30センチの距離のベランダが、色褪せて見えた。
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