「ちょっと麗央ー? 買い物お願いしたいんだけどー!」


 再度わたしを呼ぶ声がして、濡れた頬を拭いながら重い腰を上げた。


「何を買えばいいのー?」


「スープ作るから野菜と、ウィンナーとー……」


 キッチンへ届くようにとお互い大きな声で話すけれど、窓も開けているし隣りに丸聞こえだろう。


 夏生がいたら、きっと、「俺も食べたいなー」って日差しとともにあのベランダの窓から声が降ってきたはずだ。


 そんなあるはずもないことを考えながら、本を閉じて座っていた椅子に置く。


 あの頃に戻れるはずもないのに、夏生がいた時のことばかり考えてしまう。